「環境問題」は今や周知の社会問題です。多くの人が日々のニュースなどで「環境問題」なる問題が存在することを知っているし、どうやらこれがそれなりに社会にとって重要な問題であるらしいということも感じています。けれどもこの「環境問題」の内実を我々は果たしてどの程度理解しているでしょうか。「環境問題」と一口に言っても、大気・水・土壌等の汚染問題、ゴミ問題、エネルギー問題、開発行為に対する住環境保全の問題等々、そこには多種多様な問題が含まれています。そして、この多種多様な問題は、現実社会のどこかの現場において具体的に顕在化しているのです。問題は決してテレビのニュースや新聞の中に抽象的に存在しているのではありません。
このように、具体的な環境問題はそれぞれ別個の問題として各々の現場に存在しているのであって、必然的に解決の仕方もそれぞれの問題に応じて別個に考えられるものです。「環境問題」という言葉はこのような個別具体の問題の包括的な総称に過ぎません。したがって「環境問題」に対するオールマイティな解決法が存在するというわけではありません。漠然と「環境問題」が存在していることを知っていても、内実を知らないことには解決には繋がらないのです。
問題解決の第一歩は、問題を認識することです。「環境問題」という社会問題の解決を考える場合にも、最初にどのように問題認識を行うかが決定的に重要となります。問題を認識し、これを対象化し、解決に向けての戦略課題を立て、実践していく…。しかし、認識という行為は決して容易なものではありません。無意識のうちにとらわれている自明性の枠の中で物事を見ている限りでは、新たな問題認識はあり得ないからです。この枠を超えるためには感性と想像力が不可欠です。常にアンテナを立てて情報収集をし、想像力をたくましくして、眼前で起きていることを理解しようとする姿勢がなければ、新たな問題を認識することなど到底不可能です。既存の学問分野においてすでに蓄積された知識を習得すればそれで問題認識が可能になり、さらには問題解決まで達成できるというのであれば、環境問題などそもそも発生していなかったことでしょう。
だからこそ、それまでの自分が変わるということなしには新しい問題の認識もありえません。自らの感性を磨き、想像力を鍛えることで、それまでは見えなかった問題が初めて見えるようになってくるのです。
このようにしてようやく問題認識に辿り着いたところで、残念ながら問題解決にはまだ道のりは遠いといわざるをえません。問題認識の段階は、ようやくいかなる問題がそこに発生しているかを理解したに過ぎないのです。例えば、幹線道路沿いの大気汚染が問題認識されたとしましょう。これが自動車の排気ガスの問題として対象化され、交通量規制によって汚染の緩和を図るという戦略が立てられたとしても、いかにして自動車の数を減らすかという具体的方策はここからは直接導き出せません。これを考えるためには、現代の車社会の実情、交通政策の実態、人々の行動様式、さらには自動車産業の位置づけ等々、調べなければならないことが山ほど出てきます。一つの問題の認識は、このように別の問題の認識へと連鎖していくのです。
こうなるといかにして「循環型社会」「持続可能な社会」を構築するかなどという課題はあまりにも壮大なものであり、どこから手を着けてよいのかすら戸惑ってしまいます。けれども環境問題の深刻化は日々進行しているのであり、そんな悠長なことは言ってはいられません。とにもかくにも感性を磨き・想像力をたくましくして問題認識という第一歩を踏み出すことです。
環境問題というと、とかく温暖化問題やエネルギー問題といった地球環境問題がクローズアップされがちですが、「環境」という概念には「生活環境」のようなものも含まれます。我々の身近に目を向けると、「生活環境」に関わる種々の問題が存在していることに気づかされます。そのような地域に存在する環境問題は、地球規模の議論をしていてもなかなか網にかかってきません。また、環境問題への取り組みを考える際には、政府や国家のレベルだけでは困難な問題も多く、市民レベル、地域レベルの対応の必要性が指摘されているところであります。
本研究室では、地域における市民や住民の活動を中心に、環境問題を考察していくことを主要なテーマにしています。具体的な事例に即しながらそこから論点を抽出するというのが基本的な姿勢となります。これまでの学生が取り組んできたテーマについては、「OB・OG」のページで確認してください。
下記のテーマは現在の研究室の主要テーマですが、これから研究室に所属を希望する方がこのテーマに固執することはありません。むしろ、積極的に新たなテーマを開拓してくださることを歓迎します。ただし、本研究室の基本姿勢としては、(1)現実の社会問題に関心を持っていること、(2)研究に際しては自らの“現場”を設定して調査を通じて現実社会との関わりをもつこと、が重視されます。
このようなテーマを追求していくためには、それぞれの問題状況に関連してくる諸分野に視野を広げながら、従来のものの見方では欠けている要素を取り込んだ新たな認識枠組みを構築していくことが必要となります。本研究室では、これまでの社会学の手法にとらわれず、特に自然科学的な手法や考え方も取り入れつつ、具体的な事例を通して環境問題を中心とした諸社会問題へアプローチしていくことを目的としています。