研究室紹介


■ 「環境問題」という社会問題

「環境問題」は今や周知の社会問題です。多くの人が日々のニュースなどで「環境問題」なる問題が存在することを知っているし、どうやらこれがそれなりに社会にとって重要な問題であるらしいということも感じています。けれどもこの「環境問題」の内実を我々は果たしてどの程度理解しているでしょうか。「環境問題」と一口に言っても、大気・水・土壌等の汚染問題、ゴミ問題、エネルギー問題、開発行為に対する住環境保全の問題等々、そこには多種多様な問題が含まれています。そして、この多種多様な問題は、現実社会のどこかの現場において具体的に顕在化しているのです。問題は決してテレビのニュースや新聞の中に抽象的に存在しているのではありません。

このように、具体的な環境問題はそれぞれ別個の問題として各々の現場に存在しているのであって、必然的に解決の仕方もそれぞれの問題に応じて別個に考えられるものです。「環境問題」という言葉はこのような個別具体の問題の包括的な総称に過ぎません。したがって「環境問題」に対するオールマイティな解決法が存在するというわけではありません。漠然と「環境問題」が存在していることを知っていても、内実を知らないことには解決には繋がらないのです。

問題解決の第一歩は、問題を認識することです。「環境問題」という社会問題の解決を考える場合にも、最初にどのように問題認識を行うかが決定的に重要となります。問題を認識し、これを対象化し、解決に向けての戦略課題を立て、実践していく…。しかし、認識という行為は決して容易なものではありません。無意識のうちにとらわれている自明性の枠の中で物事を見ている限りでは、新たな問題認識はあり得ないからです。この枠を超えるためには感性と想像力が不可欠です。常にアンテナを立てて情報収集をし、想像力をたくましくして、眼前で起きていることを理解しようとする姿勢がなければ、新たな問題を認識することなど到底不可能です。既存の学問分野においてすでに蓄積された知識を習得すればそれで問題認識が可能になり、さらには問題解決まで達成できるというのであれば、環境問題などそもそも発生していなかったことでしょう。

だからこそ、それまでの自分が変わるということなしには新しい問題の認識もありえません。自らの感性を磨き、想像力を鍛えることで、それまでは見えなかった問題が初めて見えるようになってくるのです。

このようにしてようやく問題認識に辿り着いたところで、残念ながら問題解決にはまだ道のりは遠いといわざるをえません。問題認識の段階は、ようやくいかなる問題がそこに発生しているかを理解したに過ぎないのです。例えば、幹線道路沿いの大気汚染が問題認識されたとしましょう。これが自動車の排気ガスの問題として対象化され、交通量規制によって汚染の緩和を図るという戦略が立てられたとしても、いかにして自動車の数を減らすかという具体的方策はここからは直接導き出せません。これを考えるためには、現代の車社会の実情、交通政策の実態、人々の行動様式、さらには自動車産業の位置づけ等々、調べなければならないことが山ほど出てきます。一つの問題の認識は、このように別の問題の認識へと連鎖していくのです。

こうなるといかにして「循環型社会」「持続可能な社会」を構築するかなどという課題はあまりにも壮大なものであり、どこから手を着けてよいのかすら戸惑ってしまいます。けれども環境問題の深刻化は日々進行しているのであり、そんな悠長なことは言ってはいられません。とにもかくにも感性を磨き・想像力をたくましくして問題認識という第一歩を踏み出すことです。

■ 地域社会と環境問題

環境問題というと、とかく温暖化問題やエネルギー問題といった地球環境問題がクローズアップされがちですが、「環境」という概念には「生活環境」のようなものも含まれます。我々の身近に目を向けると、「生活環境」に関わる種々の問題が存在していることに気づかされます。そのような地域に存在する環境問題は、地球規模の議論をしていてもなかなか網にかかってきません。また、環境問題への取り組みを考える際には、政府や国家のレベルだけでは困難な問題も多く、市民レベル、地域レベルの対応の必要性が指摘されているところであります。

本研究室では、地域における市民や住民の活動を中心に、環境問題を考察していくことを主要なテーマにしています。具体的な事例に即しながらそこから論点を抽出するというのが基本的な姿勢となります。これまでの学生が取り組んできたテーマについては、「OB・OG」のページで確認してください。

■現在の研究室の主要テーマ

下記のテーマは現在の研究室の主要テーマですが、これから研究室に所属を希望する方がこのテーマに固執することはありません。むしろ、積極的に新たなテーマを開拓してくださることを歓迎します。ただし、本研究室の基本姿勢としては、(1)現実の社会問題に関心を持っていること、(2)研究に際しては自らの“現場”を設定して調査を通じて現実社会との関わりをもつこと、が重視されます。

1. 大震災からの復興まちづくり
1995年の阪神淡路大震災の際には、復興まちづくりの現場で調査を数年にわたって行いました。復興まちづくりの過程では持続可能な都市の在り方が模索されましたが、これは現代都市がこれから向かう一つの方向性を示したものと言えます。このまちづくりを都市計画論との関係において考察するとともに、まちづくりの担い手である住民、行政等の諸主体間の関係についても考えます。この研究は災害研究であると同時に、現代都市が恒常的に抱える諸問題を捉える研究でもあります。こうした視点は、2011年の東日本大震災においても継続しています。
2. 現代の参加型まちづくり
住民参加、市民参加が議論されるようになってから30年以上経過していますが、よく例示される神戸や世田谷のような先進事例と一般的な地域とでは大きな格差があると言わざるをえません(特に大都市と地方とではその差が余りにも大きいように感じられます)。また、近年では「まちづくり」が盛んに行われるようになってきましたが、住民活動を支える仕組みや制度はまだまだ十分なものとは言えません。住民主導で自らの生活環境を充実させていくような地域社会構築の可能性について、事例研究を進めながら検討しています。
3. 市民社会におけるボランティア
社会問題の解決に向けて期待される行動主体として、市民のボランタリィな活動について考えていきます。この研究はボランティア活動のみに照準するのではなく、市民社会論や公共性の議論等にも連接する視点を有しています。
4. 持続可能な地域社会の可能性〜諫早湾干拓事業を事例として
諫早湾干拓事業を巡る様々な社会問題についての現地調査を踏まえて、地域社会の住民が持続的に生活を営んでいくためにはどのような要素・条件を考慮していかなければならないかについて考察をしています。
5. 現代都市における建築紛争と景観まちづくり
1960年代から70年代にかけて、高度成長にともなう都市拡大は様々な住民運動を引き起こしました。これに対して都市インフラの整備や法律の整備が進められ、問題解決が図られてきました。2000年以降、バブル崩壊後の景気低迷を克服し、都市の開発・再開発は活気を呈してきましたが、これに伴って都心部などでは高層マンション建設が盛んになり、周辺住民との紛争がかつてのように多発してきています。このような住民運動を調査しながら、現代的な争点は何であるのか、開発と住民生活とはどのように折り合うことができるのか/できないのかを考察していきます。また、近年では「景観」に関する意識が高まってきています。各地で展開している景観まちづくりを社会学的な視点で読み解いていきます。
6. 東日本大震災に見られる後方支援の論理
2011年に発生した東日本大震災では、様々な支援が被災地に差し向けられましたが、特に津波被害の大きかった三陸沿岸部へのアクセスが容易ではなかったことから、遠野市などにボランティアの後方支援の基地が作られました。このように、前線の現場で支援活動が展開できるためには、それを支える様々な後方支援体制が整うことが必要です。従来のボランティア論、支援論にはなかった後方支援論の構築を試みます。具体的には復興グッズや足湯ボランティアを題材に、支援の実践を試みつつ考えていきます。
7. 福島県田村市におけるまちづくり活動
2009年より、当研究室は福島県田村市のまちづくり活動に関わるようになりました。田村市には「田村地域デザインセンター」(UDCT)という公民学の連携によるまちづくり組織があり、この活動に学生を送り込みながら、まちづくりの実践に取り組んでいます。人口減少が進む地方都市において、どのようなまちづくりが可能なのかを、行政や住民と試行錯誤を繰り返しながら、日々考えています。

このようなテーマを追求していくためには、それぞれの問題状況に関連してくる諸分野に視野を広げながら、従来のものの見方では欠けている要素を取り込んだ新たな認識枠組みを構築していくことが必要となります。本研究室では、これまでの社会学の手法にとらわれず、特に自然科学的な手法や考え方も取り入れつつ、具体的な事例を通して環境問題を中心とした諸社会問題へアプローチしていくことを目的としています。

■受験を考えている方へ


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